『スポーツ批評宣言』

フランス文学、映画評論、現代思想などで有名であり元東大総長でもあるあの蓮實重彦がスポーツについて熱く語っています。

スポーツ批評宣言あるいは運動の擁護

スポーツ批評宣言あるいは運動の擁護

蓮實重彦に関しては『反=日本語論』や『随想』などを読んだことがあるのですが、その時の印象は一言で言うと「かっこいい!」です。
内容はもちろん素晴らしいのですが、それに加えてその語り口がとても刺激的です(いわゆる蓮實節?らしいです)。一般的には評論とかそういった類のもので文体にまで気を使ってるものは少ないと思うのですが、蓮實重彦の本は読んでいて爽快なくらいの文体です。
まあつまり小説を読んでいるのに近いとでもいうのか、文章の強度が高いとでもいうのか・・・つい暇な時など手にとって読んでしまいます。

そんな蓮實重彦がスポーツについて語っているということで読んでみました。期待していた通りの素晴らしい本です。先ほど言った語り口も素晴らしいですし、内容についても納得できるものばかりです。

この本で一貫して述べられているのは、スポーツは一瞬の「美しさ」を楽しむものでありそれ以外の数字であるとか、人間ドラマであるとかは全くどうでもいいということです。また、その数字や気持ちにこだわるマスコミやジャーナリズムは「運動」を嫌う人類の代表として振る舞う「反=運動」的な存在であるとし、それを批判しています。そしてこの「運動」はスポーツに限るものではなく政治や社会などの「運動」についても同じであり、「醜さ」を直視することが必要である、
と広げています。

そしてこれらについて語るために様々な者について言及しています。ワールドカップはクラブ・チーム同士の戦いに比べ魅力について明らかに劣ること、乱闘の美しさ、スポーツが反民主主義的なものであることなど。そういえばロナウドの髪型についても言及してました(笑)。


これらはとても納得できるものだと思います。スポーツ中継などで選手のエピソードみたいなものが入ると僕はうんざりするんですが、それは僕だけではないでしょう。そんなもんはどうでもいいからさっさと良いプレイ見せろよ!っていう。
まあ僕がそういう感動人間ドラマみたいなのが大嫌いなのもあるんですが、それにしてもああいうのは邪魔です。やはりそれはスポーツは「美しさ」を楽しむためのものだからです。
また蓮實重彦も書いていることですが、海外スポーツ中継と称して海外チームへ移籍した日本人ばかり写すのにもげんなりです。

また対談などでも辛口は健在であり、「死ね」などの言葉も平気で使っていて思わず笑ってしまいます。評論家や監督、選手も名指しで批判しており大変おもしろいです。


まあそういった感じで大変おすすめです。持ってない人は是非。


・・・それにしても蓮實さんはオリバー・カーン嫌いなんだなー(笑)